なぜ彼女はフォークソングを歌い続けるのか。「再燃」への想いが滲み出る渾身のワンマン。


70〜80年代のフォークソングを今の感性で歌い続けるシンガーソングライター・魚高ミチル。
2023年には、カバーベストとオリジナルアルバムを立て続けにリリース。
このリリースを記念したワンマンライブが大阪・東京の2箇所で開催された。
本記事では六本木BIRDLANDで開催された東京公演の様子をレポートする。

Text:Backy☆OSAKA

ステージでギターを弾いている男性

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Photo:Hammer

アーティスト本人は演らないであろうメドレー。そして「人の想い」が詰まったセットリスト。

この日、1曲目に披露されたのはオリジナルアルバムからの『逃避行』。このライブが「逃避行」となり、足を運んだ人たちの特別な時間になってほしいという思いが、魚高のにこやかな笑顔ととともに伝わってくる。

続いては、吉田拓郎のカバー『今日までそして明日から』。魚高は観客一人ひとりの顔を見渡しながら歌い、会場からは自然に手拍子が湧き上がった。

『銀の雨』(松山千春カバー)では、この日のために銀のブーツを履いてきたの。
と話しながら3ヶ月ほど前から始めたスリーフィンガーのギターテクニックを初披露。

Photo:Hammer

「やってみたかったセットリストがあって」。そう話しながら披露したのは「化粧」をテーマにした2曲。魚高曰く「(アーティスト)本人たちは絶対に演らない、魚高ミチルのライブでしか聴けない曲です!」と前置きをしてメドレーが始まった。

メドレーでは『素顔』(長渕剛カバー)と『化粧』(中島みゆきカバー)の2曲を披露。2曲とも拍手が起きたのは後奏の余韻が消えてから。このことからも、観客が最後の最後まで丁寧に曲を聴き込んでいるのが伝わってきた。

ステージで楽器を弾いている男性

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Photo:Hammer

魚高は10年近く前からYouTubeでカバー動画を配信しており、今でもその頃の動画にコメントが付くことがあるという。第一部のラストは、たくさんのコメントの中でも強く印象に残ったという一文を読み上げてからの『ホームにて』(中島みゆきカバー)。

コメントは、福島原発近くに帰ることのできない故郷を持ち、家族と離れブエノスアイレスで暮らしている方からのものだった。『ホームにて』は、自身と故郷を繋ぐ唯一の曲だと記されていたという。”人の想い”を通して歌いあげる魚高の声は会場全体を包み込み、第一部の最後に大きな感動を与えた。

盟友とのギターセッションを披露しつつ「再燃」の意味を曲とともに伝えた第二部。

ステージで演奏している人たち

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Photo:Hammer

第二部のオープニングは10年来彼女のサポートをしている盟友・木下卓郎をステージに呼び寄せ『夜が開けたら』(浅川マキカバー)を演奏した。曲の始まりと同時にステージ後方のワインレッドのカーテンが開き、この曲にピッタリな六本木の夜景が広がった。

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続いてはオリジナル曲の『野良猫』。新宿のネオン街で夜を過ごす少女たちを描き令和の世情を歌う曲だ。夜をテーマにした曲が続いた後は、宝くじについての詞が年末の雰囲気を思わせる『あした天気になれ』(中島みゆきカバー)。さらに中島みゆきのカバーで『あした』。心地よいギターセッションのイントロから、六本木の夜景を背景に響く魚高の声が聴く者の胸に沁み渡る。

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次に披露されたのは、彼女がオリジナルアルバムを作るきっかけになったという『暗夜灯』。コロナ禍で思うように活動ができなかった時に生み出されたメッセージソングだ。「本当にこれから何が起こるかわからないから、みなさんは自分の人生を生きてください」そう告げると、そのまま『飛びます』(山﨑ハコカバー)へ曲を繋いだ。

「コロナ禍があって、自分も病気になったりして、もうステージに立つことができないかもしれないと思っていました」と語る魚高は、改めて会場へ駆けつけたファンに礼を告げる。この日の最後の曲は『伴走者』。「ラストは私の言葉で伝えたいと思いオリジナル曲にしました」と、第二部を自身の楽曲で締め括った。

ステージでパフォーマンスをしている人達

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Photo:Hammer

曲を終えた直後の「ありがとうございました」の声と同時に、会場にはアンコールの手拍子が響き渡る。魚高は一旦、舞台袖に戻るもすぐに笑いながらステージに現れた。

「今年はミュージシャンやアーティストの訃報が多かったと思いませんか。そんなことを考えると、寝る前とか心にポッカリ穴が空くんです。でも、お別れっていうのは受け止めていかなきゃいけないなって」。そう語ると、彼女なりの“別れとの向き合い方”を歌にしたという『さよならの意味』を歌い上げ、2023年を振り返った。

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そしていよいよ、本当にこの日最後の曲となったのが中島みゆきの『ファイト!』。「私が“再燃”できたのも間違いなくこの曲のおかげ。私が始まり、私が終わる曲だと思っています」。そう語るように、この曲は魚高ミチルの分身のような存在だ。静かにシンプルな旋律から、そっと曲が始まる。

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この曲に背中を押されてシンガーソングライターの道を選んだという彼女は、いつもこの歌に導かれてきたという。そんなバックボーンを知っている筆者としては『ファイト!』といえば本家よりも魚高ミチルの歌であり、この曲は彼女の分身だとすら思っている。

やさしさと暖かさ。そしてこの曲にずっと支えられ続けている彼女そのものが曲に宿っているのを感じる。ミラーボールの光に包まれた会場中が、きっと同じ想いで彼女の歌う『ファイト!』に耳を傾けていたことだろう。この曲だけは、曲の終わりを待たずに大きな拍手が湧き上がった。

夜の街を歩いている人達

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Photo:Hammer

2022年の活動休止期間を経てからの2023年。魚高ミチルは2つのアルバムをリリースし、ツアーを実施することで「再燃」を果たした。

「もっともっと歌を届けたい」事あるごとにそう口にする彼女の熱量は、

この先さらに高まっていくことだろう。

Photo:Hammer

魚高ミチル「再燃」レコ発ワンマン
2023年12月2日 六本木BIRDLAND セットリスト

第一部

M1:逃避行(オリジナル)
M2:今日までそして明日から(吉田拓郎カバー)
M3:銀の雨(松山千春カバー)
M4:素顔(長渕剛カバー)
M5:歌姫(中島みゆきカバー)
M6:ホームにて(中島みゆきカバー)

第二部
M7:夜が開けたら(浅川マキカバー)
M8:野良猫(オリジナル)
M9:あした天気になれ(中島みゆきカバー)
M10:あした(中島みゆきカバー)
M11:暗夜灯
M12:飛びます(山﨑ハコ カバー)
M13:伴走者

アンコール
EN1:さよならの意味
EN2:ファイト!(中島みゆきカバー)

コメント

  1. たの より:

    当日は予定がありライブに行けなかったのですが、ライブレポを見て次回は必ず行こうと思いました。
    素顔と化粧をメドレーで演奏するアーティストがこの時代にいることに感動です。

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